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マジックショップ店長が目指す「お客様の心を動かす接客」-2

2015年8月31日
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鮮やかな手つきでトランプを操る

マジックショップ店員として働き始めて2年ほどした頃、とても印象に残っている出来事がありました。ある日、男の子とそのお母様・お祖母様という3人組のお客様が来店されました。その組み合わせでマジックショップに来られる方は珍しくないのですが、その男の子が特殊な事情で学校に行きたがらない子供だったのです。

店頭で店長が演じるマジックを、その男の子は夢中になって観ていました。そうこうするうちに男の子は手品に興味を持つようになり、その後も3人で店に足を運んでいただくようになりました。どこか塞ぎ込んだような子だったのですが、店長の手品を観るためにマジックショップに行くなら外に出るという状態だったようです。

ある日、店長はいつものように店に来た男の子に「じゃあ今日はこの面白いのを一緒にやってみようか!」と手品を演じていました。そして、手品を終えると男の子の方を見てこう言ったのです。「今は辛いことがあるかもしれないけど、この手品の練習のように、諦めないでやっていれば必ずいいことがあるよ。」その言葉を聞いて、男の子の様子が明らかに変わりました。それまでずっとうつむいていたのが、店長の目を見て元気よく「はい!」と答えたのです。その様子を見たお母様はすごく喜ばれ、横にいたお祖母様は感激し涙を流されていました。

私はその時の店長を見て、接客でこれほどまでに人の心を動かすことができるのかと衝撃を受けました。そして、私もこの店長のような接客ができるようになりたいと思うようになったのです。それまでの私は、接客に対し「お客様にリクエストされたものを販売すればいい」という感覚を持っていました。いわば自動販売機のようなイメージです。それが、人間が心を込めて対応すればお客様はこんなにも喜んでくれるのだと考えを改めさせられたのです。

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店長から学んだことを受け継ぎ、いよいよ店を任されるように

その時店長はすでに60歳を超えており、そろそろ引退したいということはずっと口にされていました。それを運営会社からの説得で、後任が育つまで残ってくれと引き止められていたようです。そこで私が後を継ぎたいと手を挙げ、他店舗での経験を経て店長を務めさせていただくことになりました。

店を任されるようになって、改めて店長から学んだことの重要性を認識させられました。私が店長から教わった最も重要なポイントは「相手が何を欲しているのか察して、それをすぐに実行する」ということです。中でも思い出に残っているのが、物を切るときのエピソードです。

店頭で実演販売をしていると、パッケージの開封や在庫の棚入れ等何かと物を切る必要が出てきます。そのような時に、手伝いをしている私はすぐにハサミを出さなければなりません。しかし店長は「ハサミを取ってくれ」とは言いません。店長が物を切りたそうにしていると、それを察してハサミを出すようにと鍛えられるのです。

さらに、物を切るときにはハサミを要求される場合とカッターナイフが必要な場合とがありました。ハサミが必要な時にカッターを出すと違うと言われ、カッターの時にハサミを出すと怒られる。考えた私はある日カッターとハサミを両方出したのですが、やはり「どちらが必要か自信を持って出しなさい」と注意されました。

まさに師匠と付き人のような関係だったのですが、おかげでお客様の要求を察する能力を鍛えられました。これは、店頭での実演販売において非常に重要なスキルです。当店に来られるお客様で「こういう状況なので、この商品をください」と言ってくださる方はほとんどいらっしゃいません。お客様とのやり取りの中で手がかりを探し、「このお客様にはこの商品を勧めると良いのではないか」ということを察し提案する能力が必要になってくるのです。