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食卓に笑顔を届けたい-地域に愛される街の豆腐屋さん

2016年3月3日
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東京都世田谷区の駒澤大学駅前商店街にたたずむ豆腐店、安達屋。80年以上にわたり地域に愛されてきた街の豆腐屋さんだ。大量生産のメーカー品に押され経営難に陥った店舗を立て直した3代目店主の武藤常陽氏に、自身が目指す「食卓に笑顔を届ける豆腐」について聞いた。

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東京都世田谷区、駒澤大学商店街の豆腐店「安達屋」

私は東京都世田谷区の駒澤大学商店街で豆腐店「安達屋」を営んでいます。安達屋は福島県出身の祖父が開業した豆腐店です。はっきりとした記録は残っていないのですが、安達屋の創業は昭和5年、1930年前後と聞いています。祖父が開業して以来ずっとこの地で店を営業していますので、もうかれこれ80年以上はここで豆腐を作り続けていることになります。

豆腐屋の仕事は、農家さんが1年かけてつくった大豆を、次の1年で豆腐につくり変えることです。農家さんが春に種を植えて秋に収穫した大豆を仕入れ、その大豆を毎日少しずつ豆腐につくりかえていくのです。

毎日の豆腐づくりは、夜の仕込みから始まります。大豆を洗って水に浸し、朝までかけて大豆を柔らかくしておきます。翌朝、柔らかくなった大豆を磨り潰し、ドロドロの状態にして釜で炊き込みます。こうして炊き上がったものを搾ると、搾り汁が「豆乳」に、搾りかすが「おから」になります。この豆乳に凝固剤である「にがり」を加えると豆腐の出来上がり。安達屋の豆腐が仕上がるのは、毎朝9時~10時くらいです。

豆腐が仕上がると、今度はその豆腐を使って揚げ物をつくります。生揚げや油揚げ、がんもどきや焼き豆腐などです。これらの揚げ物は12時頃から仕上がりはじめ、最後につくる焼き豆腐が店頭に並ぶのは午後1時過ぎ。そこからひと段落すると、翌日の仕込みをはじめます。これが安達屋の1日です。

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仕込みを行う安達屋三代目店主の武藤常陽氏

豆腐づくりは夜の仕込みからはじまりますが、仕込みの時間や大豆を浸す水の温度は、その日の気温や大豆の状態によって変化します。同じ大豆でも収穫から時間が経過するにつれ状態が変化するので、その状態と外気の環境を考慮しながら仕込み具合を調整するのです。まさに経験と勘の世界で、豆腐屋の腕の見せどころですね。他の豆腐屋さんも、それぞれ研究されているポイントだと思います。

安達屋では、冬場に新しい大豆を仕入れます。これまで1年間使ってきた大豆から、その年の秋に収穫された新しい大豆に切り替えるのですが、この切り替えは何度やっても緊張しますね。

作柄の良い年・良い大豆を使うと、そんなに苦労しなくても良い豆腐が仕上がります。大豆の方から勝手に豆腐になってくれるような感覚です。ところが、作柄に恵まれなかった年の大豆は、細かい調整を加えないと安定して豆腐になってくれません。毎年毎年良い大豆が採れるわけではありませんので、大豆の切り替えを迎えるときはいつも「今年の大豆はどうかな~」という気持ちで新しい大豆を仕入れています。

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クセの少ない大豆を丁寧に調理し、飽きのこない豆腐に仕上げることを目指す

安達屋の豆腐の材料は、大豆・にがり・水の3つだけ。素材の味がそのまま豆腐の味につながるだけに、素材選びには神経を使います。その中でも、大豆選びは特に重要なポイントです。

現在日本では、様々な品種の大豆がつくられています。大量の豆腐を安定して供給する大手豆腐メーカーは、大量生産される品種の大豆を使わなければなりませんが、私たちのような個人豆腐店は少量しか採れない品種でも使うことができます。これは個人豆腐店ならではのメリットですね。甘味が強い大豆といった、個性的な大豆から豆腐をつくることもできるのです。

しかし私は、敢えてあまり個性がないベーシックな大豆を使っています。大手メーカーが使っているものに近い、豆腐用の大豆としては非常にポピュラーな品種です。そうした大豆を丁寧に豆腐にした方が、美味しくて飽きがこない豆腐に仕上がると考えているからです。たまに食べて「これは美味しい!」と感じる豆腐ではなく、毎日食べても飽きない定番の豆腐をつくりたい。こうしたコンセプトをもとに、私は定番の食材を丁寧に調理することを心がけています。