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チリ出身・京都で活躍する針金アーティストの職人魂-2

2015年8月31日
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京都市東山区のシンボル、法観寺八坂の塔の近くにたたずむロペス氏の店舗

そんな大学生活を送る中、私のもとに多言語放送のラジオ局から番組制作及び番組中のDJをやってくれないかという依頼が入りました。その依頼を受けてラジオの仕事をするうちに、次第にラジオ局・テレビ局から仕事の話が来るようになってきました。そこで私は当初の予定を変更して、日本定住を決意しました。もちろん仕事と並行して民俗学の勉強も続けており、最終的には大学院卒業まで民俗学を学ぶことになりました。

ラジオ局・テレビ局の仕事に従事していた頃の私は、ほとんどアーティストとしての活動はしておりませんでした。針金細工のスキルもこのまま失ってしまうと、私自身も考えていました。当時は、ラジオ・テレビの仕事で生きていくつもりだったのです。

しかし日本で結婚し、子供が生まれた時に妻から言われた一言で私の運命が大きく変わりました。「このままあなたの針金細工の技術が失われてしまうのはもったいない」そして私は針金アーティストとしての活動を再開し、友人の助けもあって職人の街京都に店を構えるに至ったのです。

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店内には色とりどりの針金自転車が並ぶ

京都に店を構えるにあたって、外国人ならではの苦労もありました。店をオープンしてから1年半ほどした頃に、私は店舗を拡大することにしました。当初は3畳程度の小さな店だったのですが、針金アートの制作風景を見せられるショーウィンドーがある店舗にしたいと考えたのです。

ちょうどその頃、私たちの店の隣の店舗が空き物件になりました。その物件はショーウィンドー付きの店舗でしたので、そこを借りて営業することにしました。しかし、そのショーウィンドーが京都市の景観保護に関する条例に引っかかってしまったのです。

私たちの前にその物件を借りていた店は、日中にショーウィンドーを開放して営業し、夜間は板でつくった雨戸のようなものでショーウィンドーを塞いでいました。しかし私たちがその物件を借りて営業を開始すると、日中でもショーウィンドーを閉めなければならないと言われたのです。建物所有者である不動産管理会社の説明では「ショーウィンドーは京都市の許可を得てつくったものなので、景観保護の観点からショーウィンドーを塞がなければならないはずがない。京都市との交渉は必要になるだろうが、ショーウィンドーを開放して店舗営業することは問題ないはずだ」とのことでした。しかし実際には、私たちがショーウィンドーの開放営業を京都市に求めても話は一向に進展しませんでした。

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板で塞がれたショーウィンドー。かつては表通りから工房の作業風景を観ることができた

結局私たちは日中ショーウィンドーを閉めて営業を再開したのですが、街を訪れる観光客の方々から塞がれたショーウィンドーについて質問を受けることが多くなりました。「なぜこちらの店はショーウィンドーを塞いで営業しているのですか」という質問です。景観保護の為だと説明するのですが、皆さんその説明に対して「塞いでいる方がむしろ景観が悪いですよ」と言われるのです。

考えてみると当然のことなのですが、ショーウィンドーを塞ぐために使用していたのは通常夜間に雨戸の用途で使う板なのです。日中の景観保護を目的につくられたものではありません。そのようなものでショーウィンドーを塞がれているわけですから、私たちの店の売り上げも目に見えて落ちていきました。

私たちは再度京都市に対し、ショーウィンドーの開放について話し合いの場を求めました。「代替策としてショーウィンドーを景観になじむ格子窓にしてはどうか」「土日や繁忙期、時間を限定して開放を許可するといった措置をとってもらえないか」「ショーウィンドーを塞ぐにしても、景観保護に適した方法で塞いでくれないか」様々な案を持ち込みましたが、やはり話し合いは進展しませんでした。

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板で塞がれたショーウィンドー(写真右側)景観保護に適した塞ぎ方か疑問が残るという

最終的に弁護士をたてて法廷で争うことになったのですが、裁判の判決を待たずして行政代執行が行使され、ショーウィンドーは強制的に塞がれてしまいました。景観保護条例に関する行政代執行としては全国初の事例、他の行政代執行の事例と比較しても異例の早さでの行使でした。あまりの早さで行政代執行が行使されたことに、弁護士の方々も驚いていたほどです。そして京都市から、行政代執行が行使されたことを理由に、法廷での訴えを取り下げるように求められたのです。

行政代執行が行使されたのは2014年12月10日、私たちにとっては年間売り上げの20%を占める年末年始の繁忙期を前にした時期でした。その時は、どうしてこのタイミングで行政代執行が行われたのか疑問でしかありませんでした。「なぜ法廷での判決を待たないのか、判決を待てない理由があるのか」「他にもっと緊急性の高い、行政代執行が必要な事案があるのではないか」「こちらがお願いした、景観保護に適した塞ぎ方も考慮してくれないのか」こうした疑問を抱えたまま、店のショーウィンドーは、かつて観光客が「むしろ景観が悪くなる」と言っていた方法で塞がれてしまいました。

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ショーウィンドーを通して明るい店内が見えるはずだった

この件がニュースになり、多くの方々から声をかけていただきました。そんな中で「これが第1例であるからこそ泣き寝入りしないでほしい。今後同じような目に遭う方を出さないためにも、簡単に屈さないでください」という応援のメッセージを頂きました。このメッセージを受けて、私たちは法廷での訴えを取り下げず最後まで裁判で争うことを決めました。

景観保護に関する行政代執行は、これまでに前例がありませんでした。今思い返してみると、私たちはその前例を作るための格好の的だったのかもしれません。「京都に来た外国人が伝統的な街並みを乱している」と報じれば、センセーショナルな前例になるわけですから。残念なことですが、これは外国人ならではの問題だと感じてしまいます。どうしても「もし京都に代々続く職人さんが同じ立場にあったなら、このような問題は起きなかったのではないか」と考えずにはいられないのです。

私は法廷で京都市と争っていますが、私は京都の景観保護には大賛成です。京都市と同じ方向を向いて、京都の景観保護に努めたい。京都に来る人に喜んでもらいたいと心から思っています。法廷での争いについても、私は別に裁判に勝ちたいわけではありません。この件の真実を知りたいだけなのです。