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大阪と北海道で二重生活を送る、大阪唯一の移動養蜂家

2016年1月8日
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生駒山の麓に位置する大阪府交野市私市のはちみつ店、茨木養蜂園。社長の稲田治氏は大阪で唯一、移動養蜂を営む養蜂家だ。春は私市の山で密を採取し、6月になると蜂と一緒に北海道に移動する。大阪と北海道で二重生活を送る稲田氏に、移動養蜂家としての暮らしを聞いた。

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大阪府交野市私市の「茨木養蜂園」と「喫茶がんび」

私は大阪の交野市私市(かたのし きさいち)で「茨木養蜂園」を営んでいます。養蜂には同じ場所で咲く花の蜜を集める「定置養蜂」と、花の開花時期に合わせて移動する「移動養蜂」の2種類があるのですが、私たちの茨木養蜂園は大阪で唯一移動養蜂を行っている蜂屋です。

私たちの1年は、春に私市の山で密をとることから始まります。そして大阪の春が終わりかける6月になると、蜂を連れて北海道に移動します。すると北海道の春がやって来るので、もう一度春の花から蜜がとれるのです。そのまま北海道で夏を過ごし、蜂の数を増やしながら冬を越すためのエサを蓄えます。

秋になると私市に戻り、蜂の整理を行います。寒さに弱い蜂は冬になると数が減ってしまうので、それに合わせて巣箱の大きさを変え女王蜂の代替わりを行うのです。冬を越す準備が整ったら、今度は大阪最南端の岬町に移動して越冬します。そして春になると、また私市に戻って来て蜜とる。これが私たちの移動養蜂のサイクルです。

茨木養蜂園は1950年、私の祖父が大阪で唯一の専業の蜂屋として開業しました。その後2代目である父が後を継ぎ、母がはちみつを使用した軽食を楽しめる喫茶店「喫茶がんび」をオープン。私は高校卒業後22年間会社勤めをした後、茨木養蜂園の3代目として父の後を継ぎました。

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私市と北海道で移動養蜂を行う稲田治氏

一般的に「はちみつ」は甘味料として捉えられていますが、実は香りを楽しむ食べ物です。甘さの糖度としては、砂糖の半分程度しかありません。はちみつを口に含み、舌にのせて、喉を通る。その後に残る「余韻」こそが、はちみつの醍醐味なのです。

私は、はちみつは「甘味・酸味・辛味・風味」という4つの味のバランスが大切だと考えています。甘味料としての甘味に加え、喉を通った後に酸味・辛味・風味が混ざり合った余韻が残る。そんな4つの味を楽しめるはちみつが、茨木養蜂園のはちみつです。

「天然はちみつ」のみを取り扱うということも、私たちがこだわっているポイントです。はちみつには、「天然はちみつ」と「加工はちみつ」の2種類があります。天然はちみつとは、蜂がとってきた蜜をそのまま使うはちみつです。採取した密を網でこし、不純物を取り除いただけのはちみつです。

加工はちみつとは、天然はちみつに水あめや砂糖といった加工物を入れたはちみつです。加工はちみつは、ジャムなどの原料としてよく使用されます。ジャムに天然はちみつを使うとエグ味が出てしまうので、それを緩和するために水あめや砂糖を加えた加工はちみつが使用されるのです。

この手法を逆手にとって、加工物を入れたはちみつを「天然はちみつ」と偽って販売している商品も多く見受けられます。しかし、私たちは「まがいものを売らないこと」を家訓に、創業以来一貫して天然はちみつのみを販売しています。

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大阪府交野市私市の山。麓には七夕伝説発祥の地である天野川(あまのがわ)が流れる

私市の山は、大阪・奈良・和歌山にまたがる金剛生駒紀泉国定公園の端に位置します。国定公園で開発の手が入っていないので、豊かな自然林が残っています。そんな私市の山で、私たちはレンゲ・アカシア・桜・百花という4種類のはちみつを採取しています。これだけ蜜源となる花が豊富な山は、大阪では珍しいですね。

かつて私市には人がほとんど住んでおらず、田んぼとレンゲ畑が広がっていました。戦後になって平野部の開発が進むと、山間部に砂防の為アカシアが植えられるようになります。私市の山は砂山なので、平野部の開発にあたり砂防の植林が必要だったのです。また、私市の山は山桜が豊富で、桜の名所として知られています。こうした背景から、私市の山ではレンゲ・アカシア・桜の蜜が豊富に取れるのです。

レンゲ・アカシア・桜が開花する狭間の期間は、様々な花から蜜をとる百花蜜を採取します。百花密はその年によって採取する花の種類が異なるので、毎年微妙に味や色合いが異なるのが面白いポイントです。甘苦い風味のはちみつで、食べた後に残る強い余韻が特徴です。

レンゲは百花ほど余韻が強くなく、まろやかな甘味。アカシアは後味が少なくさっぱりしていて食べやすい。桜は豊かな風味と香りが特徴です。私市の山では、こうした個性的な4種類のはちみつを採取しています。